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熊本地方裁判所八代支部 昭和51年(タ)3号 判決

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 馬奈木昭雄

右訴訟復代理人弁護士 江上武幸

被告 甲野次郎

右訴訟代理人弁護士 楠本昇三

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  原被告間の長女春子(昭和四六年一月一九日生)、長男夏男(昭和四七年四月一一日生)、二男秋男(昭和四八年一二月一五日生)の親権者をいずれも被告と定める。

三  被告から原告に対し金四〇〇万円を分与する。

四  被告は原告に対し右金額を含めて金七〇〇万円を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  原告と被告とを離婚する。

二  原被告間の長女春子(昭和四六年一月一九日生)、長男夏男(昭和四七年四月一一日生)、二男秋男(昭和四八年一二月一五日生)の親権者を被告と定める。

三  被告から原告に対し金一、〇〇〇万円を分与する。

四  被告は原告に対し右金額を含めて金一、六〇〇万円を支払え。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

《以下事実省略》

理由

一  《証拠省略》によれば請求の原因一が認められる。

二  離婚の理由について

《証拠省略》によれば

1  原被告らは結婚以来被告の両親と同居し、「甲野畜産」という名で被告の父甲野太吉経営名義にかかる畜産業に従事していたが、約二年後には近くに別居するに至った。

2  被告は結婚当初から一ヵ月平均二〇日位友人らと夜飲みに出歩き、翌朝帰宅するという生活を繰り返していたが、昭和四七年頃からバーのホステスをしていた訴外乙山松子と知合うようになった。同女は当時○○市内で両親(もっとも父親は入院していた。)、前夫の間にもうけた男児(昭和四四年一一月一三日生)と一緒に生活していた。被告と同女の仲は次第に親密になり、昭和四九年頃には被告は同女方に泊ったり、二人で深夜出かけたりするようになり、同女の父が昭和五〇年五月病院で死亡した頃は見舞ということで毎晩病院で同女と会い、さらに右父の初盆には被告自らその世話をし、その関係から同女方に泊り込んだりしていた。

3  結婚以来の被告の右生活態度ならびに被告には女性問題で噂の絶えなかったことから、原告と被告との仲は円満さを欠くことも少なくなく、被告はこのことに関し苦情を述べる原告に暴力を振うことが多く、しかもこれを忠告する被告の父親らにも暴行を働くことがあったが、被告と訴外乙山松子との関係を原告が知るに至って原被告間の夫婦関係は極度に悪化し、このことを相談した被告の父から逆に実家に帰るよう言われたこともあって、原告は昭和五〇年八月二三日夜二男秋男を連れ実家に帰った。そして、同月二七日と同年九月六日に仲人らを交え原被告らは話合ったが、夜間の外出を慎んだら戻るという原告に対し、これを止めることはできないという被告との間で話は物別れとなった。以後原被告らは別居して現在に至っている。なお、原告は二男の秋男を連れて実家に帰ったが、四日後には被告が連れて帰り、その後三人の子は被告が養育している。

4  被告は原告が実家に帰った後訴外乙山松子方に泊ったりしていたが、同年九月頃から同女がバーをやめ被告方に来て仕事をするようになり、同女において被告方に泊り込むようになった。そして、同女は昭和五一年一月一四日には住民登録を被告と同一地番に移し、同年二月頃には家財道具を被告方に運び、住民登録は同年五月一二日に○○市に移したものの、以後、被告方に住み込んでおり、同年一二月九日には被告の子竹夫を出生し、被告も同月一四日これを認知した。

ことが認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によれば、被告は訴外乙山松子と性的関係をもちその間に男子を出生したものであるから、被告の右行為は民法七七〇条一項一号に該当するものというべきである。したがって右を理由として被告との離婚を求める原告の本訴請求部分は理由がある。

三  親権者について

右二3認定のとおり、原告が実家に帰った後は原被告間の三人の子はいずれも被告において養育しており、《証拠省略》によれば被告は今後とも三人の子を養育する意向を示していることが認められ、その他右各証拠からうかがわれる原被告双方の現在ならびに離婚後の立場等から考えて、三人の子の親権者をいずれも被告と定めるのを相当とする。

四  財産分与について

本件において財産分与は婚姻中配偶者双方の協力で得た財産の清算および離婚後の扶養をその要素とするところ、《証拠省略》によれば原告は当二八年であって、現在両親らと同居し、事務員として一ヵ月金七万円の収入を得て生計を維持していることが認められるから、離婚後の扶養については考慮しないこととし、以下、婚姻中原被告双方の協力で得た財産の清算について判断する。

右二1認定のとおり、原被告は結婚後は被告の父太吉経営名義にかかる畜産業に従事していたのであるが、《証拠省略》によれば、原被告の稼働分は全て太吉の収入となり、婚姻中双方の協力で得た原被告名義の財産は存しないこと、もっとも婚姻後被告名義で取得したことになっている桑畑五町歩があるが、右は被告、その両親らが相談のうえ他から資金を借りて購入したものを偶々被告名義にしたものにすぎないことが認められ、右事実によれば、原被告が婚姻後双方の協力によって取得した、清算の対象となるべき原被告名義の財産は存しないものといえないではない。

しかしながら、財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻後双方の協力によって取得した財産であって現に法律上いずれかの名義に属するもののみではなく、法律上は第三者に属する財産であっても右財産が婚姻後の夫婦の労働によって形成もしくは取得されたものであって、かつ、将来夫婦の双方もしくは一方の財産となる見込の十分な財産も含まれると解するのが相当である。

そこで本件についてこれをみるに、《証拠省略》によれば、「甲野畜産」の経営名義人は被告の父太吉であり、実際の仕事は原被告のほか、被告の両親、被告の兄甲野太郎夫婦が分担してなしていたこと、原被告の結婚当初は被告の両親と原被告が乳牛一〇数頭を飼育し、右太郎は食堂を経営していたが、その後乳牛を肉牛に切替えて経営規模も次第に拡大し、原告が実家に帰った昭和五〇年八月頃には原被告と太吉が肉牛五七〇ないし五八〇頭(一頭当り金三五ないし四〇万円)を飼育し、太郎は肉屋と食堂を経営し、被告の母と太郎の妻が養蚕(桑畑五町歩)に従事していて、従業員も五、六人いたこと、太郎経営の食堂関係を除いて収入はすべて太吉に帰属していたことが認められる。

右事実によれば、原被告の婚姻後昭和五〇年八月までに太吉名義で形成取得した財産中には原被告の労働による寄与分が存することは明らかであって、しかも右は太吉の死亡による相続等で将来被告の財産となる見込が十分な財産であるから、右財産部分は本件離婚における清算の対象となるものというべきである。そこで、その額について算定するに、本件各証拠によるも太吉名義の財産中原被告の労働による寄与分が明らかでないので、結局、賃金センサス第一巻第一表による労働者の平均賃金を基礎とし、右のうちから原被告の生活費等として要した分もしくは支給した分を控除した金員が原被告の労働によって太吉が形成取得したものであって、財産分与の対象となるものというのが相当である。よって、原被告の同居期間中の労働価値を右賃金センサスの原被告と同年代の男子および女子労働者の平均賃金によって算定すると別表のとおり合計金一、一一五万二、五〇四円となる。つぎに《証拠省略》によれば、原被告は当初は被告の両親と同居していたこともあって生活費等は被告の父太吉が負担していたが、昭和四八年八月から一一月まで子どもの下着代や保育料名下に一ヵ月金五、〇〇〇円を、同年一二月から昭和四九年一一月までは一ヵ月金五万円を、昭和四九年一二月から昭和五〇年五月までは一ヵ月金七万円を、昭和五〇年六月からは一ヵ月金九万円をそれぞれ生活費名下に太吉からもらっていたことが認められるところ(《証拠判断省略》)、原被告各本人尋問の結果からうかがわれる原被告の生活状態、程度等からして、太吉の負担した原被告の生活費は原被告の同居後昭和四五年一二月三一日までは一ヵ月金二万円、長女春子が出生した月である昭和四六年一月一日から昭和四七年三月三一日までは一ヵ月金三万円、長男夏男が出生した月である昭和四七年四月一日から昭和四八年一一月三〇日までは一ヵ月金四万円と認めるのが相当であるから(なお、右各証拠によれば被告は一ヵ月平均金一〇万円を飲酒代として費消していたが、右は被告が酪農組合の飼料の配達等により得た運賃収入から支出していたものであって、太吉の負担したものではないことが認められる。)以上を合計すれば、原被告の同居期間中太吉が負担しあるいは支払った生活費等は金二七二万二、六六六円(円以下切捨)となる。したがって、前記金一、一一五万二、五〇四円から右金二七二万二、六六六円を差引いた金八四二万九、八三八円が財産分与として清算の対象となる財産というべきである。

よって、右金員を基準にし、右に対する原被告の寄与割合は平等とみたうえ、前記説示の諸事情を考慮して財産分与額を裁量すると金四〇〇万円をもって相当と認める。

五  慰藉料について

右二認定の原被告間の婚姻が破綻するに至るまでの事情、婚姻継続期間、離婚原因、原被告各本人尋問の結果からうかがわれる婚姻継続中の原被告の協力の状況その他諸般の事情を斟酌すれば、本件離婚による原告の精神的苦痛を慰藉するためには金三〇〇万円をもって相当と認める。

六  弁護士費用について

原告が本訴提起を福岡県弁護士会所属弁護士馬奈木昭雄に委任したことは当裁判所に顕著な事実である。ところで本件のような離婚訴訟において原告に要した弁護士費用の賠償を被告に命じ得るためには、被告の応訴が不当抗争に及び、かつ、その不当抗争が不法行為となるときに限るというべきであるところ、本訴における被告の応訴が右説示の不当抗争に及び、かつ不法行為となることを認めるに足りる証拠は存しない。

よって、この点に関する原告の請求は理由がない。

七  結論

以上説示のとおり、原告の本件離婚請求は理由があるからこれを認容し、原被告間の三子の親権者をいずれも被告と定め、財産分与として被告に対し原告に金四〇〇万円を支払うよう命ずることとし、原告が被告に支払を求める慰藉料としては金三〇〇万円の限度で正当であるからこれを認容し、その余の慰藉料請求ならびに弁護士費用の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 神吉正則)

〈以下省略〉

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